~宇宙データセンター、冷却費ゼロ・電気代ゼロの夢と、管理者泣かせの現実~

私たちが普段何気なく使っている「クラウド」。直訳すれば「雲」ですが、その実態は、地上のどこか涼しい土地に建てられた、巨大で無骨なコンクリートの塊(データセンター)です。 しかし今、この比喩が現実になろうとしています。AWSやマイクロソフト、そして日本のNTTなどが本気で目指しているのが、「宇宙データセンター構想」です。

文字通り、サーバーをロケットに積んで宇宙空間に浮かべてしまおうという、SF映画顔負けの話。ですが、エンジニア視点で紐解くと、これが意外なほど理にかなっているんです。

サーバー屋が泣いて喜ぶ「究極の環境」

サーバー管理者にとって、永遠の悩みは二つ。「熱」と「電気代」です。 高性能なCPUを積めば積むほどサーバーは高熱を発し、それを冷やすために莫大な空調コストがかかります。某データセンターでは、電気代の半分が空調代なんて話もザラです。

ところが、宇宙に行けばどうでしょう。外気温はマイナス270度。何もしなくてもキンキンに冷えています。排熱設計さえ間違えなければ、エアコン代はタダ。 さらに、雲の上に出てしまえば、天候に左右されずに太陽光発電が24時間365日使い放題です。「冷却費ゼロ、電気代ゼロ」。経営者が見たら涙を流して喜ぶコスト構造が、そこにはあります。

光をも凌駕する「スピード」の世界

もう一つのメリットは「速度」です。「光ファイバーより速いものはない」と思われがちですが、実は光はガラスの中を通る時、真空中に比べて3割ほど速度が落ちます。 つまり、海底ケーブルをごちゃごちゃ経由するより、真空の宇宙空間でレーザー通信をした方が、理論上の遅延(レイテンシ)は小さくなるのです。

1ミリ秒を争う金融トレーダーたちが、この「宇宙の低遅延回線」に巨額を投じる未来は、すぐそこまで来ています。

ただし、運用担当者は胃に穴が開く?

メリットばかりに見えますが、現場の運用担当者からすると、想像するだけで脂汗が出るような課題もあります。

最大の問題は、「物理アクセスが絶対に不可能」だということです。 地上なら、「HDDのランプが赤点灯してるから交換してきて」とか、「フリーズしたから電源ボタン長押しして」という荒技が使えます。しかし、高度数千キロの彼方ではそうはいきません。

RAID構成が崩壊しようが、カーネルパニックが起きようが、現地に駆けつける「スマートハンズ」サービスは存在しないのです。 そのため、ハードウェアには放射線(宇宙線)によるビット反転(ソフトエラー)に耐えうる堅牢性と、絶対に止まらない冗長性が求められます。「壊れたら交換」ではなく、「壊れることを前提に、自律修復するシステム」が必要です。

「宇宙エッジ」という新しい常識

では、具体的に何に使うのか? 有力なのが「宇宙エッジコンピューティング」です。 衛星で撮影した高精細な地球の画像データはペタバイト級。これを全部地上に送信するのは帯域の無駄です。 そこで、宇宙にあるサーバーでAI解析を行い、「ここに船が映っている」「森林火災が起きている」という「結果」だけを地上に送る。これなら通信量は最小限で済みます。

かつて、サーバー室の冷房設定温度が重要な事が懐かしくなるほど、スケールの違う話ですが、技術の進歩は止まりません。 あと数年もすれば、SSHでログインしたサーバーのホスト名が ap-northeast-1(東京)ではなく、space-orbit-low(低軌道)になっている……なんて未来が来るかもしれません。

将来FU-KAKUのサーバがいつか宇宙サーバで展開していて、「サイトが落ちている?応答しない?」「再起動かけよう!」「いえ、今ちょうど衛星が地球の裏側で……」なんて会話をしているのかもしれません。 そんな「真のクラウド時代」を想像すると、少しワクワクします・・・